DEROSA シートステー二か所クラック修理
一軒家の小さな作業場で、自転車の修理をコツコツ続けています。
今回は、DEROSAと当時中学生だった女の子の話です。
1. ほぼ新車のDEROSAが緊急搬送
ほぼ新車のDEROSAが持ち込まれました。
乗っとったのは、当時中学生だった女の子。
集団走行中に前走者との距離が詰まり、いわゆる「ハスる」形で転倒してしまったとのことでした。
幸い、転んだ瞬間に体は自転車の上に乗るような形になったそうで、本人に大きな怪我はありませんでした。
そこは本当によかった。
ただ、自転車のほうは無傷ではありません。
シートステーに二か所、しっかりクラックが入っとりました。
DEROSAがあの子を守ってくれたっちゃろうね、ありがとうDEROSA!
お父さんは・・そりゃ涙目。買ったばかり、ほぼ新車ですもん。
2. 傷を見えるところまで塗装を剥がす
カーボンの修理で怖いのは、見えている傷だけで判断してしまうことです。
塗装の割れなのか、表層だけなのか、繊維まで傷んでいるのか。
そこを見誤ると、作業そのものが違う方向へ進んでしまいます。
まずは塗装を剥離し、損傷を可視化できる状態にしました。
ここは地味ですが、急いではいけないところです。
今回のクラックは、千切れてバラバラになってしまうほどの破断ではありません。
ただ、シートステーのセンターが少し狂っていました。
ここがなかなか厄介です。
割れている場所をふさぐだけなら、話は分かりやすい。
しかし、ホイールを入れた時にセンターが出ないフレームでは困ります。
時折ホイールを装着し、センターの狂いを確認しながら仮接着していきました。
3. カーボンを積層して補修する
クラックは深めで、しかもダイレクトマウントブレーキ台座の付け根にあたる箇所でした。
少し太くなりますが、カーボンを三回巻きで進めました。
元の形状、周辺とのつながり、力の入り方を見ながら、必要な分だけ補修していきます。
4. 盛って、削ってを繰り返す
カーボンの補修が終わったら、次は形を戻していきます。
パテを盛っては削り、また盛っては削る。これを3~4回。
サフェイサーを塗って、表面の凹凸を見て、また削る。
写真で見ると一瞬ですが、実際にはこの時間が長いです。
そして、仕上がりの印象はこの地味な時間で決まります。
フレームのラインが不自然に膨らんでいたら、修理跡はずっと目に入ります。
乗るたびに気になる。
せっかく直しても、それでは少し寂しい。
できるだけ自然に、段差が目立たないように、もとのDEROSAの雰囲気に戻す。
そう思いながら、少しずつ整えていきました。
5. 赤、黒、そしてツヤありと艶無し
塗装は、まず赤から入れました。
次に黒です。
最後にクリヤーを塗って完成。
赤い部分は艶あり。
黒い部分は艶消し。
少し手間のかかる塗り分けですが、ここを省くと雰囲気が変わってしまいます。
修理は、壊れたところをつなぐだけでは終わりません。
持ち主が見た時に「ああ、戻ってきた」と思えるところまで持っていきたい。
そこまでやって、ようやく少しホッとします。
6. 喜んでもらえると、こちらも元気になる
今回の出来は、自分でもかなり良い感じでした。
女の子にも、お父さんにも、とても喜んでもらえました。
こういう時の笑顔は、作業した側にとっても大きなご褒美です。
おじさんは、女の子の弾ける笑顔に弱かとです。
ほんと、嬉しい元気をもらいます。
7. その後の彼女とDEROSA
彼女は大きな怪我も経験し、大変つらい思いもたくさんしました。
一時期はもう自転車に乗ることも危惧される状態でしたが、それでも彼女は見事に乗り越えて自転車の道を諦めませんでした。
高校では強豪の自転車部に進み、三年間しっかり頑張る姿を見せてくれました。
国体選手にも選ばれ活躍する事ができました。
4年後の現在は花の女子大生。
中学生だった子が、高校で走り、大学生になり、自分の将来を考えている。
その時間のどこかに、自分が修理した一台が残っている。
それは、修理した側として、やっぱりうれしいことです。
8. 4年後、大学生になっても愛車!
自分が直したバイクが、その後どんなふうに経年変化していくのか。
これは、とても気になります。
作業が終わった瞬間はきれいでも、実際に走って、使われて、時間が経ってどうなのか。
そこまで見ないと、本当の意味では分かりません。
本人に連絡したところ、現在の愛車の写真と共にこんなメッセージをもらいました。
DEROSAを修理していただいてからは、不具合なく走り続けることができてます!練習や大会で何度か落車もしましたが、再破損することは1度もなかったです。
今はスポーツサポートの道で新たな目標を見つけ、勉強に励んでいます。国家資格、認定試験に合格できた際にはぜひご報告させてください!
修理から約4年。
今でも愛車として乗ってくれているようです。
いや、本当に良かったです。
これはうれしかですね。
修理というのは、作業台の上で終わるものではないと思っています。
持ち主のところへ戻り、また走り、時間の中で使われていく。
その後もちゃんと走り続けてくれていると分かった時、ようやく少し安心できます。
一本のフレームを直しただけ、と言えばそれまでです。
でも、その一本が、誰かの練習や大会や、悔しかった日や、うれしかった日を一緒に走っている。
そう考えると、やっぱりこの仕事は面白かです。