市場にないものを真面目に作ったら、市場そのものがなかった話
ブルーオーシャンを狙ったつもりでした。
ところが、海に人がおらんかった。
市場にないものを真面目に作ってみたら、市場そのものがなかった。そんな、少し切ない開発記録です。
1. 競技場で見た高級ピストたち
最近、自転車競技場に足を運ぶと、ARGON18やLOOKなどの超高級ピストがわんさか走っています。フレームだけで150万円近い、かなりのブルジョア価格。履いているホイールも、お決まりのように前はバトン、後ろはディスクのフル装備です。
いや、すごい時代になったもんです。そこで、ふと思いました。
「なんで練習でもディスクなん?」
尋ねてみると、返ってきた答えはとてもシンプルでした。
「それしか選択肢がないんです」
どうやら、安価な練習用のスルーアクスル対応アルミホイールが市場にないらしい。それで練習でもバトン・ディスクなのね。
「アルミがないなら、ディスクを使えばいいじゃない!」
マリー・アントワネットもビックリな贅沢な話です(笑)
2. これは商売の種では?
ピコーン! これは耳寄りな情報なのでは?!
市場にない。困っている選手がいる。ならば、作れば売れるのではないか! そう考えたわけです。
この時は、商売の種を見つけたと興奮しました。
この時は、です。
3. ないなら作る
誰も参入していないブルーオーシャンに切り込もうと、早速商品開発に着手しました。まずは様々なハブを購入し、分解して調べます。
調べるうちに、フロントハブは既製品として使えそうなものが存在することが分かりました。そこは流用。
問題はリヤです。こちらは全く存在しない。仕方ないので、内蔵するシャフトは旋盤で削り出し、オリジナルで作製することにしました。
もう、この時点でだいぶ面倒くさい。ばってん、こういう面倒くさいところが少し楽しかったりします。
4. 使う選手に寄り添った設計
リムもスポークも、できるだけ汎用性の高いものを選びました。万が一の際に、修理しやすい構成にしたかったからです。
専用品だらけにすると、壊れた時に困ります。練習用ホイールなら、なおさらです。
壊れても直しやすい。部品が手に入りやすい。普通に使えて、普通にすぐに直せる。
そんな、使う選手に寄り添った設計を目指しました。自分で言うのもなんですが、けっこう真面目に設計しています。
5. プロトタイプ完成
こうしてプロトタイプが完成。実際に選手にも乗ってもらいました。
評価は、悪くない。
よし。これはいける!
製品第一号を、喜び勇んで売りに出しました。
通常のピストフレームでも使えるよう、前後アダプターシャフトも付属。規格の違いに対応できるよう工夫しました。
6. そして、売れない
結果。全く売れません。全然売れません。清々しいほど売れません。
地元の選手が付き合いで数本買ってくれただけ。これは外したか……。
スルーアクスルのピストホイール。市場にほとんどない。ということは、欲しい人が困っているはず。そう思ったわけです。
作りました。真面目に作りました。それなりに考えて、手間もかけました。
結果、一般のお客さんには一本も売れていません。もう笑うしかなかです。
ブルーオーシャンどころか、海に人がおらんかった。
7. なぜ勘違いしたのか
これを売れると勘違いした原因は、私の環境にあったのかもしれません。普通の人は、スルーアクスルの高額なピストなんか持っていません。
私のまわりの環境が少し特殊で、世間一般とは違っていた。そう、私の知人はガチの選手ばかりです。普段からARGON18やLOOKT20も目にすることは珍しくありません。
競技場で見ている特殊な景色が、普通にあふれる世の中の景色だと勘違いしていた。これは完全に読み違えました。
市場にないものを作ったつもりでした。でも、そもそも市場そのものがなかった。
8. でも、作った意味はありました
商品としては外しました。ばってん、作った意味はありました。
ハブを分解して調べること。シャフトを削り出すこと。実際に組んで、選手に乗ってもらうこと。
その中で得たものはあります。売れないことも含めて、勉強です。
ちょっと授業料が高かった気もしますが。
欲しい方がいらっしゃいましたら、お問い合わせフォームよりご連絡ください。受注生産で作りますので、少しお時間をいただきますが、オーダー可能です。
今回のトライでは市場は見つかりませんでしたが、物としては真面目に作っています。使う人がいれば、ちゃんと役に立つホイールです。
使う人がいればですが……。