時速70キロの落車で沈黙したDi2レバー。原因は3.5ミリの小さな部品でした
以前、一緒に練習していた高校生から、久しぶりに連絡がありました。都道府県大会の雨の下りで、時速70キロ前後から単独落車したとのこと。ガードレールの手前に置かれていたスポンジに救われたそうです。まず気になったのは自転車より本人。擦過傷はありましたが、幸い大きなけがはなかったそうで、ここは本当にほっとしました。
ところが本人はケロリ。「あの速度じゃ、曲がりきれるはずないですよねぇ(笑)」と、なんともあっさり。こちらは話を聞くだけで肝が冷えたのに、才能ある若い選手の肝の座った言葉にいつも驚かされます。いや、まずは無事でよかった。
1. 大きなスイッチだけ、返事がありません
雨の路面を滑ったためか、自転車は速度の割に損傷が少なく見えました。ただ、左のDi2 STIレバーにひとつ困った症状がありました。下側の大きなスイッチを押しても反応しません。上の小さなスイッチとブラケット上のスイッチは動きます。
「全部だめ」ではなく、「ここだけだめ」。以前に似た症状を見たことがあったので、原因の見当をつけて中を確認しました。
2. 犯人は、直径約3.5ミリの小さな部品
スイッチのバネの先に付くはずの、小さな樹脂部品がありません。直径は約3.5ミリ。こんな小さなものがひとつ消えただけで、レバーは黙り込んでしまいます。落車の衝撃で外れたのかもしれません。
幸運だったのは、バネが残っていたこと。この小さなバネが特殊で、どこを探しても類似品を含め入手することが出来ません。このバネが無くなっていたら本格的に詰みでした。
部品を並べてみると、あらためてその小ささが分かります。机の上で目を離したら、再び行方不明になりそうです。
スモールパーツで売ってないか確認してみるとレバー内部のパーツは全く無し、アッセンブリーで交換しろということらしい・・・
ST-R9270の左レバーの定価は、税込66,510円。直径3.5ミリの部品ひとつが消えただけで、レバーを丸ごと交換するには高校生には大きな出費です。ならば、足りないパーツを旋盤で削り出し作る事にしました。
3. 老眼のおじさん、視力の限界点
無いものは作ればいいのよ!と似た素材の樹脂の棒を旋盤に取り付け、元の部品に合わせて削り出します。今回は指先に乗る極小サイズ、0.1ミリ単位の精度で削り出します。見ているこちらの目のほうが先に疲れます。老眼にはなかなか厳しい作業です。
部品も小さすぎて遠心力でどこかに飛んでいきそうです。注意深く切り出します。
寸法を少しずつ合わせ、ようやく完成。純正の黒い部品と、今回作った白い部品を並べると、「これだけのために?」と言いたくなる大きさです。ばってん、この小さな部品ひとつがどうしても必要でした。
バネに組み戻すと、部品はパチンと心地よくバネに収まりました。精度良く作る事が出来た証拠のようで心地よい。スイッチも再び反応。直径3.5ミリほどの小さな部品が仕事をしてくれると、大きな機械を直した時とは違ううれしさがあります。
5. RDハンガーの曲がりを直す。
落車で大きく曲がっていたリアディレイラーハンガーも確認し修正しました。ダイレクトマウントハンガーは丈夫に出来ています。手に伝わる曲げの感覚も良い手応えです。通常の物よりしっかりしてる。
ただ、何度も曲げ戻しを繰り返した金属は見た目大丈夫に見えても、金属疲労で弱くなってしまいます。
金属疲労の心配が残ることもお伝えし、出来れば交換することをお薦めしますとお伝えし納品させて頂きました。
6. 久しぶりに、三人で競技談義
納品の際には、以前共に練習していた別の高校生も一緒に会いに来てくれました。三人で話し始めると、いつの間にかいろんな話で盛り上がります。
部活のこと、機材の質問、レースでの出来事、学校のこと、顧問とのやり取り、キラキラした目で色んな話を聞かせてくれました。
若者は良いですね、屈託のない爽やかな笑顔と飾らない素直な言葉、二人の話におじさん本当に癒されます。
次の大きな目標は、新人戦で権利を獲得し、春の全国選抜のポイントレースで全国制覇を狙いにいくそうです。頼もしかですね!おじさん必ず現地に足を運び競技場で応援します!
二人ともまずは安全に。そして格好いい走りを見せてください。楽しみにしています!