カーボン修理

ARGON18 シートステーとBBまわり、二箇所のカーボン修理

工房日誌 / カーボン修理 / ARGON18

カーボン修理でお預かりしたARGON18です。

工房へ来たフレームには、今回の接触事故による傷と、少し前のチェーン落ちによる古傷。原因の違う二箇所の損傷が残っていました。

1. 人間は病院へ、ARGON18は工房へ

二人で渋滞の列を避けるように、左側の広めの路肩を走行していた時のこと。

右折してコンビニへ入ろうとした車と接触してしまったそうです。

最近オートバイの事故でもよく耳にする、「右直事故」と呼ばれる怖い事故です。

右直事故では、右折する側と直進する側の双方で、相手の存在に気づくのが遅れることがあります。渋滞の脇を走る際は、自転車側も十分に速度を落とし、徐行する必要があります。

本人は手首を骨折。一緒に走っていた方も巻き込まれて落車しましたが、幸い大きな怪我はなかったとのことでした。

人間の手首は病院で治療。

ARGON18は工房で治療。

そんな形で、お預かりすることになりました。

2. ついでに古傷も直してほしい

今回の事故で傷んだのは、右側のシートステーです。

もう一箇所、BB付近にも深めの傷がありました。

こちらは今回の事故とは別件です。

以前、チェーンが落ちた時にクランクとフレームの間へチェーンが挟まり、そのまま気づかずクランクを回してしまい、傷つけてしまったそうです。

問診を進めると、古傷がもう一つ出てきた。

一台のフレームの中に、新しい傷と古い傷。フレームのカルテが二ページ増えたような状態です。

3. BBまわりの古傷を確認する

チェーンが挟まって損傷したARGON18のBB下側
BB下側の損傷。チェーンが挟まった時に、角を中心に深く傷が入っていました。

まずはBB付近から確認します。

フレーム下側の角を中心に、深めの傷が入っています。

軽く打音を確認すると、周辺の高い音とは違い、段ボールを叩くようなボソボソと低い音が返ってきます。

目視と打音を合わせ、内部にも影響があると判断しました。

ただし、ここは形状が複雑です。シートステーのように、カーボンをぐるりと巻くことができません。

4. 巻けない場所は、貼り重ねて支える

ARGON18のBB下側へカーボンシートを二枚重ねて補強した状態
二枚貼りで補強を加えることにしました。

そこで、角をまたぐように二枚のカーボンシートを重ねて貼ることにしました。

巻けないなら、形に合わせて支える。

巻くことで強度を出すのが理想ですが、複雑な形状ですので、フレームの角を補強する形にしました。

5. シートステーは、見えるクラック

塗装が剥がれクラックが見えるARGON18の右シートステー
右シートステーは塗装が一部剥がれ、目視でもクラックを確認できました。

右側のシートステーは、塗装が一部剥がれ、目視でもクラックが確認できます。

幸い、完全に破断しているわけではなく、クラックで止まっていました。

こちらも軽く打音を確認すると、少しこもった音が返ってきます。

範囲は狭く、クラックも比較的浅め。状態を確認したうえで、カーボンシートを二層巻きする方針にしました。

6. 黒は、ごまかしがきかない

ARGON18の右シートステーへカーボンシートを二層巻きした状態
シートステーはカーボンシートを二層巻き。必要な範囲だけしっかり補強します。

補修が終われば、次は形を整える作業です。

パテを盛っては削り、サフェイサーを吹いては磨く。

これを四回ほど繰り返しました。

仕上げが黒いフレームは、少しの段差でもよく目立ちます。

黒は、ごまかしがききません。

昔から「塗装は塗りより磨きが大切」とよく言われたものです。

あわてて黒を吹く前に、下地をコツコツ整えていきます。急がば回れです。

7. 2ミリ太く。逞しくなりました!

黒を塗装し、クリヤーを吹き、最後に磨いて完成です。

パテとサフェイサーでARGON18の補修部分を滑らかに整えた状態
左右を比べると右側が確かに太い

どうでしょうか。

左のシートステーと比べると、たしかに太いです(笑)。

測ってみると、約二ミリ太くなっていました。

元とまったく同じ形にはなりません。それでも、言われなければ気づかないくらいには仕上げることができました。

補修と黒塗装を終えたARGON18のシートステー
こちらも多少ボリュームが出てしまいましたが、違和感なく直っています。

BB付近も同様に仕上がっています。補修後は周辺同様の高い打音へ変化しました。

もちろん、打音だけで状態のすべてを決めるわけではありません。作業前後を確認するための、一つの手がかりです。

また、気休め程度の効果かもしれませんが、傷の裏側にも樹脂を塗布し、強度を上げています。

8. チェーンが落ちた時は、止まる勇気

チェーンが落ちると、クランクとフレームの間へチェーンが挟まることがあります。

でも、そのまま強引にクランクを回し続けると、カーボンフレームに大きな力がかかり、今回のようなクラックにつながることがあります。

レース中など、どうしても止まれない場面は仕方ありませんが、そうでないなら、チェーンが落ちた時はいったん停車して、外れたチェーンを掛け直して再スタートする方が安全です。

面倒くさがると、後で面倒なことになります。

現代のカーボンフレームは、クランクとのクリアランスがほとんどありません。アルミや鉄フレームの時代は、チェーンが落ちても回し続けると元に戻ると言われたこともありましたが、クリアランスの狭いカーボンでは、挟まって割れてしまうことが多いのです。

機材が変わると、運用の常識も変わります。使う側の認識もバージョンアップが必要ですね。

フレームも人も、無理に動かし続けないことが大切です。違和感が発生したら止まって確認しましょう。違和感を軽視しない人ほど、トラブルも事故も少ないような気がします。

愛車を大切に、労わって乗ってあげてくださいね。